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​概念
Concept

<内科の治療概念>
 学生時代の内科学講義ノオトを見ると、「内科治療は、可逆的なものの枠内で、本来人体のもっている利点を利用し、害なる点を抑えて疾病を癒し、健康を保つ。」とある。種々の疾患で組織の破壊が起こると、起因要素を除き、生体の防御機能や修復機能を賦活して生体組織レベルの修復を実現するわけである。起因要素が排除されると治癒機転が起こり、破壊された組織は、結合組織の再生により修復される。組織の修復には十分な栄養と細胞活性化刺激が必要とされ、食事療法、運動療法などのリハビリテーションが行われる。
これが内科の治療概念と云われるものであろう。

<内科的歯科治療>
 歯科領域には、う蝕、歯の喪失、顎機能障害、口腔癌など多種多様な疾患がある。これらの疾患の中で歯科独特のものは「歯の喪失」である。すなわち、義歯治療は歯科医しか出来ないが、他の疾患は医師も治療することができる。そういう意味で、歯科が医科との比較の中で、特殊と言える部分は欠損補綴に限られるはずである。
 であるなら、う蝕などの歯科疾患の治療は、医科を代表する内科の治療概念に立脚して然るべきである。「本来人体がもっている利点(=免疫と組織再生)を利用し、害なる点(=起因要素=病原菌、異物)を除いて疾病を癒す」という治療概念は、歯科疾患に置き換えると、「生体組織レベルの修復を得るために、口腔内を清潔にし、バランスのとれた咬合状態を構築し、生理的咬合圧を付与し、咀嚼機能の回復を図る」となる。この概念に立脚した治療を、従来の歯科治療あるいは「口腔内科」と区別し、内科的歯科治療と云う事にした。
<LSTR Therapyの位置づけ>
 例えば、細菌感染症における主たる起因要素は病原菌であることから、治療は体内に侵入した病原菌の排除を主としている。病原菌は生体免疫系の働きにより殺菌・除去されることから、患者の安静と体力の回復を図ることが重要とされている。生体免疫系の働きが病原菌の排除に不十分な場合には、援軍として抗菌剤・抗生物質が投与されることになり、病原菌が駆逐されると、臨床症状は消失し、障害された組織は再生する。こういう治療を一言で示すと「病巣無菌化、組織再生」療法(LSTR Therapy)であり、一般医科での内科治療では当然の概念である。
 う蝕、歯周組織炎が細菌感染症であることは広く認められている。従ってこれらの歯科疾患も全身の感染症と同じく、「病巣無菌化、組織再生」療法(LSTR Therapy)に則って治療できるはずである。歯科疾患の中の細菌感染症を対象とした治療は、特に内科的歯科治療の主要な部分ということで、病巣無菌化組織修復療法(LSTR Therapy)という。なお、硬組織病変を含む歯科領域での生体組織の回復は、Caイオンの蓄積でのみ起こるRegeneration(再生)とは言い難い状況も一部あるので、現状では Repair(修復)/ Regeneration(再生)としている。
LSTR(Lesion Sterilization and Tissue Repair/Regeneration)療法の概念 
~ 3Mix-MPによる生体組織レベルの修復〜

歯科領域疾患に対するLSTR療法は、病巣組織をできるだけ保存し、それを無菌化して、生体組織レベルの修復を図る治療法である。
もちろんこれまでの歯科治療術式が、「削って埋める」という治療概念に立脚していることから、内科の治療概念、強いては内科的歯科治療の概念を導入したからと云って治療が直ちに成功するわけではない。成功のためには、概念に則った術式と正しい概念が必要である。(概念と術式は表裏一体)
歯科におけるLSTR療法を成功するには、以下の事を理解しなければならない。

1.硬組織であろうと軟組織であろうと生体病巣組織の除去をできる限り避ける。
 私達は、う蝕治療の基本は、「う蝕検知液を使うなどして、軟化象牙質(=感染象牙質)を徹底して除去する。」と教育されてきた。ここで、「軟化象牙質も無菌化されれば何の害もない」という事を心底納得できるでしょうか?
2.歯科領域における「体外」と「体内」とを再認識する必要がある。
 口腔は「体外」、歯髄や歯根膜は「体内」である。体外は微生物の住む広大な世界に連絡しており、体外の細菌を撲滅(無菌化)しようとする努力は、ドン・キホーテと同じ無駄な、滑稽な冒険である。
歯の表面や歯周ポケットも体外であり、ここから微生物を一時的に駆逐することはできても、永続性がない。しかし、この部の細菌数を少数に制限することで病変の発生を防ぐことはできる。
体内でも、自覚される臨床的な病変を起こすには一定数の細菌が感染することが必要で、それ以下の数の細菌は、無自覚のまま免疫機能によって排除される。
(星野悦郎:日本歯科評論No.666号「より大きな効果を引き出す3Mixの臨床応用」から引用)
3.軟組織の細菌感染と硬組織での細菌感染は違う。
 軟組織に侵入した口腔の細菌は、急性炎症を起こすが、通常、白血球の攻撃を受け、喰菌される。すなわち、殆どの場合免疫機能が働き、短期間で全ての細菌が除去される。
硬組織の空隙(例えば象牙細管、セメント小腔)や、根充材料の間隙に残存した細菌は、そこで生き残り、慢性炎症を起こす。この様な硬組織の間隙に残存している細菌は、生体の除去作用では取り除かれないことがあり、人工的な殺菌が有効となる。
(星野悦郎:‘97東京医科歯科大学歯科同窓会学術講演会「抗菌剤が変える新しい歯科治療Part.Ⅱ」テキストから引用)

<細菌の種類>

口腔領域の病巣に侵入・感染している細菌の殆どは、口腔(歯垢、歯周ポケットなど)に生息している細菌菌種であり、酸素を嫌う偏性嫌気性菌(最近では単に嫌気性菌)が圧倒的多数を占めている。実際にう蝕病巣、感染根管、根尖病巣部などの細菌を分離して調べると、症例毎にその菌種の構成に差があっても、口腔から検出することのできる細菌菌種の範囲である。
 但し、この場合、極めて厳密な方法でないと培養できない細菌菌種も含まれており、従来の通性嫌気性菌を中心としする

口腔細菌の構成とは極めて異なることを理解する必要がある。

(星野悦郎:‘97東京医科歯科大学歯科同窓会学術講演会「抗菌剤が変える新しい歯科治療Part.Ⅱ」テキストから引用)

極めて厳密な細菌培養の嫌気性環境でないと正しく検出されない。

プラーク1g当たり10の11乗個で、グラム陽性通性嫌気性菌が主であると教わってきたが、実際には異なる。実際にはグラム陽性通性嫌気性菌は、数%しかいない。

いかに、偏性嫌気性菌を検出していないかという事が分かる。

<3Mixと嫌気性菌感染症>

 一般に嫌気性菌感染症は、宿主側の感染防御能の低下、菌侵入局所の酸素欠乏状態(正常組織の酸素濃度の9%以下)で成立し、2相性感染(嫌気性菌と通性嫌気性菌または好気性菌の混合感染)である。口腔領域の殆どの感染症が嫌気性菌感染症であることを考えると、無菌化の為には、嫌気性菌に有効な薬剤を使用する必要があり、かつ1種類の抗菌剤で全ての細菌を殺菌することは難しいことが理解される。
 3Mixは、嫌気性菌に選択的抗菌作用をもつMetronidazoleにMinocyclineとCiprofloxacinを混合して作られる。
3Mixの抗菌効果を調べたところ、歯垢、舌苔、唾液、義歯歯垢、歯周ポケット、象牙質う蝕、歯髄炎、根管内内容物、感染根管壁象牙質、根尖部セメント質、骨髄炎の細菌、レジン充填物や歯科用セメントを汚染している細菌、スメアー層の細菌に有効であった。
(星野悦郎:日本歯科評論No.666号「より大きな効果を引き出す3Mixの臨床応用」から引用)
一般的な感染症の場合、外界から病巣への新たな細菌の侵入がなく、病巣細菌の殺菌が行われることが組織の修復を可能にしている。したがって、口腔の感染症でも組織修復を実現するには、以下の条件が必須であり、それらは既に整っている。

1.体内である病巣と体外である口腔環境とを遮断する。   
2.口腔病巣に侵入している全ての細菌を殺菌できる薬剤を使用する。
3.薬剤は、高い浸透性(象牙細管深部、セメント質にまで浸透)と高濃度(内服剤の血中濃度の数倍以上の濃度)のものを使用する。
4.3Mix-MPを使用する。(3Mix-MPは、drug delivery system を具備)

例えば、う蝕で脱灰された歯質は、酸性環境が続かなければ再石灰化されうる。中性のpH環境では、アパタイト形成反応が自動的に起こってくる。
(星野悦郎:日本歯科評論No.666号「より大きな効果を引き出す3Mixの臨床応用」から引用)
アパタイト形成反応とは、以下の反応を云う。
・再石灰化;カルシウム分が再沈着すること
・再結晶化;沈着リン酸カルシウムが再びアパタイトの結晶になること
・結晶の成長;既存の結晶の上に結晶添加が起こり、結晶が大きくなること

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