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​内科的歯科治療とLSTR療法の位置づけ
The Role of LSTR Therapy in the Context of Internal Medicine-Based Dentistry

1.はじめに
LSTR療法を理解するためには、その背景にある“内科的歯科治療”を知ることが不可欠です。
歯科領域には多様な疾患がありますが、その多くは医科の種々の疾患と同じ炎症であることが知られています。しかしながら、医科の治療概念は、本来生体が持っている免疫・再生修復能力を活性化して細胞レベルの組織の回復を図りますが、歯科では形態を回復するために人工物で補い、機能の回復は運が良ければぐらいにしか思っていません。まして細胞レベルの回復は夢の世界の出来事です。医科の治療概念と歯科の治療概念は、以上のように違うのです。医学の王道が内科であることから、『医学=内科』と考え、「医科的」というべきところを「内科的」と表現したものと思われます。元より細胞レベルの組織回復は、歯科にとっても夢の治療体系であり、治療術式の開発・研究が行われてきましたが、好結果は得られませんでした。歯科において、細胞レベルの組織の回復を実現したことは、宅重豊彦先生の業績であり、従来の物理的手法とは異なる生物学的視点から歯科治療を捉えており、この治療法を内科的歯科治療と称しています。
「内科的歯科治療」という考え方は、宅重豊彦先生によって提唱されたものであり、従来の外科的手法とは異なる視点から歯科疾患を捉えるものです。1997年の学会発表を経て、1998年に日本歯科評論に掲載されました。
本ページでは、内科的歯科治療の基本的な考え方、その中でのLSTR療法の位置づけについて解説し
ます。

2.内科的歯科治療(Internal Medicine-Based Dentistry)
「内科的歯科治療」とは、単に病的状態である部分を除去して人工物に置き換える、歯を抜くといった単に外科的処置を避けるだけではなく、疾患の発生機序を医科的視点からとらえ、病因そのものに働きかけて回復を図る歯科治療を指します。
この考え方では、口腔内を全身の一部であり「歯が臓器」と捉え、細菌感染、免疫応答、炎症、組織修復といった生体反応のプロセスを重視します。そのため、抗菌薬の適正使用、組織修復の促進、過度な外科的侵襲の抑制などを実現するための治療方針が中心となります。

3.2004年公開の原文について
本概念は、2004年に宅重豊彦先生により「3Mix-MP法オフィシャルサイト」において公開されました。「内科的歯科治療」は、従来の歯科治療や口腔内科とは異なり、歯科疾患に対する独自のアプローチ・理論体系として整理されたものです。
※ 本用語は一般的な表現として使用されることがありますが、当サイトで示す内容および体系は、宅重豊彦先生によって独自に構築されたものです。
以下に掲載する原文は、2004年に公開された当時の内容を忠実に記載したものです。

<内科の治療概念>
 学生時代の内科学講義ノオトを見ると、「内科治療は、可逆的なものの枠内で、本来人体のもっている利点を利用し、害なる点を抑えて疾病を癒し、健康を保つ。」とある。種々の疾患で組織の破壊が起こると、起因要素を除き、生体の防御機能や修復機能を賦活して生体組織レベルの修復を実現するわけである。起因要素が排除されると治癒機転が起こり、破壊された組織は、結合組織の再生により修復される。組織の修復には十分な栄養と細胞活性化刺激が必要とされ、食事療法、運動療法などのリハビリテーションが行われる。これが内科の治療概念と云われるものであろう。
​<内科的歯科治療> 
 歯科領域には、う蝕、歯の喪失、顎機能障害、口腔癌など多種多様な疾患がある。これらの疾患の中で歯科独特のものは「歯の喪失」である。すなわち、義歯治療は歯科医しか出来ないが、他の疾患は医師も治療することができる。そういう意味で、歯科が医科との比較の中で、特殊と言える部分は欠損補綴に限られるはずである。
 であるなら、う蝕などの歯科疾患の治療は、医科を代表する内科の治療概念に立脚して然るべきである。「本来人体がもっている利点(=免疫と組織再生)を利用し、害なる点(=起因要素=病原菌、異物)を除いて疾病を癒す」という治療概念は、歯科疾患に置き換えると、「生体組織レベルの修復を得るために、口腔内を清潔にし、バランスのとれた咬合状態を構築し、生理的咬合圧を付与し、咀嚼機能の回復を図る」となる。この概念に立脚した治療を、従来の歯科治療あるいは「口腔内科」と区別し、内科的歯科治療と云う。
<LSTR Therapyの位置づけ> 
 例えば、細菌感染症における主たる起因要素は病原菌であることから、治療は体内に侵入した病原菌の排除を主としている。病原菌は生体免疫系の働きにより殺菌・除去されることから、患者の安静と体力の回復を図ることが重要とされている。生体免疫系の働きが病原菌の排除に不十分な場合には、援軍として抗菌剤・抗生物質が投与されることになり、病原菌が駆逐されると、臨床症状は消失し、障害された組織は再生する。こういう治療を一言で示すと「病巣無菌化、組織再生」療法(LSTR Therapy)であり、一般医科での内科治療では当然の概念である。

 う蝕、歯周組織炎が細菌感染症であることは広く認められている。従ってこれらの歯科疾患も全身の感染症と同じく、「病巣無菌化、組織再生」療法(LSTR Therapy)に則って治療できるはずである。歯科疾患の中の細菌感染症を対象とした治療は、特に内科的歯科治療の主要な部分ということで、病巣無菌化組織修復療法(LSTR Therapy)という。なお、硬組織病変を含む歯科領域での生体組織の回復は、Regeneration(再生)とは言い難い状況にあり、現状では Repair(修復)としている。

4.原文からLSTR療法への橋渡し
2004年の原文では、内科的歯科治療の基本理念に基づき、歯の細菌感染を制御し組織修復を促す方法として LSTR療法(Lesion Sterilization and Tissue Repair Therapy) が位置づけられています。
この記述を通じて、概念の具体的な臨床応用例としてLSTR療法が体系化されたことが理解できます。

5.現在の補足:Repair / Regeneration の考え方
その後の研究と臨床技術の進展に基づき、現在では Lesion Sterilization and Tissue Repair / Regeneration Therapy の表記を用いています。
なお、硬組織病変を含む歯科領域における生体組織の回復は、必ずしもCaイオンの蓄積によってのみ起こる Repair(修復)だけではないと言えます。 
現時点では病変の修復と再生の両側面を含む概念として、Repair(修復)/ Regeneration(再生) の併記を採用しています。

6.現在の掲載内容(まとめ)
内科的歯科治療は、宅重豊彦先生によって確立された概念であり、「歯科疾患を医科の内科と同じ視点から理解し、外科的侵襲を最小限に抑え、生体の治癒力を最大限に引き出す」という理念に基づいています。
この考え方は、「MI(Minimal Intervention Dentistry:最小限の侵襲による治療)」と混同されることがありますが、内科的歯科治療はMIの単なる延長ではありません。
MIが主に侵襲の少なさそのものを重視するのに対し、内科的歯科治療は疾病の病態生理を医科的に理解し、生体の防御・修復機構を積極的に活かす治療概念です。
LSTR療法は、この理念を臨床的に具現化した治療法であり、感染の制御によって組織の修復・再生を実現することを目的としています。
現時点で、内科的歯科治療の理念を実際に反映した歯科治療法として確立しているのは、LSTR 3Mix-MP療法(略称:3Mix-MP法)のみです。

7.参考文献

  1. 宅重豊彦,橋本寿郎,内海伸宏.外科的歯科治療から内科的歯科治療へ.日本歯科医療管理学会東北支部会,1997年.(学会発表)

  2. 宅重豊彦.LSTR:内科的歯科治療の実践―3Mixの位置づけ.日本歯科評論 1998; No.666:58-106.(本文該当: pp.60-62)

  3. 東京医科歯科大学歯科同窓会 学術部講演運営委員会. 卒後研修セミナー「新しい歯科治療法、LSTR療法」テキスト, 1998年9月26-27日.(研修資料)

  4. 安藤正明,宅重豊彦.内科的歯科治療に基づいた歯周病治療の一例.LSTR療法研究会,2003年.(学会発表)

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